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【テーマ・日露戦争史 02】
クリック 20世紀
交渉の基礎をなすのは、いわゆる「満韓交換論」、すなわち両国が、
ロシアの満州における権益と日本の韓国における権益を相互に認め合おうという考え方であった。
だが、双方ともに自国に有利に「満韓交換」を実現しようとした。 このことをもっとも如実に示すのが中立地帯設定の問題だろう。 日本側が満韓の国境線を中立地帯の中心にしようと主張するのに対して、 ロシアは韓国内に中立地帯を設定することを主張しゆずらなかった。 回を重ねても交渉はいっこうに進展せず、政府に開戦を迫る世論だけが声を大きくした。 唯一反戦の論陣を張っていた万朝報もすでに主戦論に傾いていた。 この世論の背景には、「戦うなら今だ」という認識があった。シベリア鉄道が単線であるうちに、 敵の戦争準備が整わないうちに、という考えである。
東郷を人選したのは、西郷従道亡き後、海軍の第一人者となった山本権兵衛海相である。
明治天皇から選定理由を問われた山本は「強運の持ち主だから」と答えている。
すでに人事は尽くしたという意味なのか、それとも東郷の強運にでもすがるほかないということなのか、
その真意はさだかではない。
参謀長に島村速雄、作戦参謀に秋山真之が選ばれている。 秋山は日清戦争以後、ロシア海軍に勝利することだけを念頭に、米西戦争を間近に観戦するなど研究を重ねてきた異色の人物だった。 強運の主将と作戦の奇才の間に、私心のない人格者である島村を配し、海軍の人事は完了した。 急遽購入した巡洋艦「春日」「日進」は回航中であり、この到着によって連合艦隊は完成する。
●初期戦略
大晦日を翌日にひかえ、統帥部と政府でそれぞれ日露戦に向けた会議が開かれた。 想定される主戦場は満州、あるいは韓国。 統帥部にとっては、日本と主戦場の間に海が横たわる以上、陸海の協力体制の確立が不可欠であり、 また、政府にとっては、主戦場が他国の国土である以上、これらの国への対応が急務となるからである。
陸軍(参謀本部)としては、ロシア側に動員の時を貸す前に、できるだけ早く戦端を開きたい。
また、速やかに韓国を押さえた上で、ここを拠点に満州で戦いたい。
一方海軍(軍令部)は、回航中の「春日」「日進」が安全海域に入るのを待って戦争を始めたい。
また、開戦と同時に旅順のロシア艦隊を急襲、これを壊滅させることで日露の海軍力の均衡を保ちたい。
日露の海軍兵力は、極東の現状ではほぼ1対1だが、ロシアはまだヨーロッパにバルチック艦隊などを持っており、
これが回送されるや、ほぼ1対2の劣勢を強いられるからである。
このような思惑の違いを埋める形で会議は進められた。 対馬海峡の制海権の確保、連合艦隊の旅順急襲と、陸軍先遣隊は海軍の初動以前には出発しないことが決定された。 同日の閣議では、列強を巻き込んだ無用の混乱を避けるため、清国に中立を維持させること、 軍事力を使ってでも、韓国を早期に絶対に確保することが決定された。 ここでは、列強に対する細心の配慮と、清国、韓国に対する強圧的な態度がみごとに対照的である。
●開戦の決断
日露交渉の決裂が決定的となっていた2月3日、ウラジオストックと芝罘(山東半島・旅順の対岸)から電報が入った。 前者は在留日本人の退去命令を予告する通告を受けたことを知らせるもの、 後者は旅順のロシア艦隊が出港したことを知らせるもので、行き先不明とされていた。 ロシア艦隊出港! すわ敵艦隊の奇襲攻撃か、と関係者は色めき立った。佐世保などで機雷の敷設作業が急遽行われたほどである。 大国ロシアと五分に戦うには、敵の準備の整わぬ緒戦において十分な打撃を与えることが最低限の条件となる。 それが、逆に奇襲を受けたのでは、勝算どころか五分の戦いをする見込みもなくなるのである。 やられる前にやらねばという空気が首脳たちの間に瞬時にして広がった。
2月4日の御前会議冒頭、山本海相が、ロシア艦隊出動の目的が不明であることを前置きした上で、
にもかかわらずこうした軍事行動が行われること自体が「戦機すでに熟した」ことを示すとする認識を述べた。
御前会議は軍事行動の開始と対露国交断絶を決定した。
この決定を胸に秘める要人たちのほとんどは、高揚する世論とは逆に悲壮であった。 例えば戦費調達のめどさえ立っておらず、そのため、曾禰蔵相は自信がないと辞表を提出しようとして慰留されたほどである。 日清戦争の戦費2億2000万円をベースに立てられた甘い甘い見積もりでさえ、 自前ではその三分の一も用意できず、同盟国イギリスへの財政援助要請では、すでに拒否回答を受け取っていた。 ここでやらねば痛み分けの可能性さえなくなるという暗い見通しが御前会議の決定を支えていた。 翌5日、ロシア艦隊の旅順帰港が伝えられたが、この知らせも開戦へのカウントダウンを止めることはできなかった。 ※ 「クリック20世紀」では、引用部分を除いて、固有名詞などの表記を極力統一するよう努めています。
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